昨今のジョブ型人事制度の導入や、物価高による経営不振の影響で、希望退職や退職勧奨の実施は確実に増えてきています。
対象となる人はこれまで真面目に仕事をしてきた中堅層以上の人がほとんどでしょう。
なんで自分なのか?
自分はいらない人間なのか?
経営陣がもっとしっかりしていたら…
希望退職や退職勧奨を打診されてネガティブな想いを抱くのは仕方ありません。
でもそこで投げやりになって退職したり、割増退職金に釣られて安易に辞めるのはお勧め出来ません。
この記事では希望退職や退職勧奨を受けたときの流れと考え方を解説していきます。
希望退職・退職勧奨の流れ
希望退職・退職勧奨の大まかな流れは下図のとおりです。
人事または所属長の面談を実施し、退職条件の確認やすり合わせを行います。
募集期間は退職勧奨は長期にわたる場合もありますが、希望退職の場合の募集期間は約1か月以内とする企業が7割となっています。
筆者の在籍していた企業では公示から退職日までの期間は最低3か月以上はあったので、厚生労働省の分類でいうと退職勧奨でした。
退職日までの期間が短いと業務の引継ぎがうまくできない場合がありますので、もし退職する場合は所属長と退職までのスケジュールについての相談も必要となります。
落ち着いてまずは条件の確認を
退職する場合の優遇や制約を確認
とにもかくにも、まずは退職条件の確認です。
- 退職割増金はいくらか
- 転身支援の内容
- 特別休暇の付与はあるのか
- その他に何か優遇はあるのか
- 退職を受け入れた場合のスケジュール(退職日、退職金振り込み日など)
- 確実に会社都合退職になるのか
- 退職の際に何か制約はあるのか
上記7項目は人事または面談者に確認しましょう。
その中でも特に重要なのは6番目の確実に会社都合になるのかです。
会社都合になるかどうかで退職後の失業手当など、行政面での優遇も変わるため、必ず確認してください。
転職先が既に見つかっていて、退職後すぐに次の職場で働くことが決まっている場合は会社都合でも自己都合でも関係ありません。
ただ、希望退職や退職勧奨の面談を受ける時点ではまだ転職活動も行っていない場合が大半です。
退職時までに転職先が決まっていればよいですが、もし決まっていない時でも会社都合退職ならば早期に失業手当を受け取ることができ、経済的なリスクが減ります。
会社都合退職になるかは必ず確認しましょう。
対象となった理由
「なぜ自分が対象なのか?」は面談者に聞いても良いですが、濁されるか悪いことを言われるかで不快になる可能性が高いです。
気がたかぶりやすい初回面談で聞いてしまうと雰囲気が悪くなったり、引っ込みがつかなくなりやすいので、ご注意ください。
希望退職や退職勧奨については、人事部が主体となって対象者を選定する場合と、所属部署の部門長が選定する場合が考えられます。
対象にされやすい基準として、以下のことが考えられます。
- 遅刻や欠勤など、勤務態度が悪い
- 給与と能力、成果のバランスが悪い
- 今後の成長が見込めない
- 周囲の評判が悪い、悪影響を与える
- もともと異動や退職を希望している
- 定年間近な社員
対象となる方の大半は真面目に仕事をしてきた人ばかりでしょう。
それでも退職を打診してくるのですから、面談では②と③の能力不足を理由に「スキル不足!ミスマッチ!」を連呼されます。
正直これはかなりメンタルをえぐられます。
「今まで評価は普通だったのに」「そんな風に思ってたの?」と人間不信になります。
⑤のもともと異動や退職を希望していた場合は、「部署異動を希望してたけど空きがないし、いっそ他の会社のほうが能力を伸ばせると思います」というかんじで退職を提案されます。
もとから今の業務に見切りを付けていた人や、将来的に故郷に帰りたい人の場合、あまり揉めずに辞めて貰えるのでお互いにとってwin-winです。
⑥は筆者の在籍した企業ではよくあったパターンで、59歳の定年間近で声をかけられるという、とにかく「〇〇人削減できました!」という実績達成のための人選です。
定年延長の予定などがなければ早々に辞めて、失業手当をもらって悠々自適できるので羨ましい限りです。
自分の価値について考える
自分のスキルを可視化する
まずはご自身のスキルを紙やエクセルに書き出してみましょう。
書き出すスキルは仕事だけでなく、趣味なども含めて思いつく限り書いてみましょう。
- 得意なこと(人に指導できるレベル)
- 出来ること(一人でこなせるレベル)
- 経験したことがあること(他者の指導が必要なレベル)
- 仕事中に他者から受けた評価
- 興味があること、やってみたいこと
書き出してみると、社会人人生が長い人ほどいろいろなスキルが出てくると思います。
次に書き出したスキルの中に偏りや共通点などはないか探してみましょう。
「〇〇の業務ばかりしていて、△△の知識が足りていない」
「手を動かしているだけで、マネジメントや後輩指導をしていない」
「□□をしていたときは忙しいけど楽しかった。また□□関連の業務をしたい」
といったように、改めてスキルを書き出すことで見えてくることがあります。
また、他人に相談する際にも役立つため、自己分析の一環として一度スキルの可視化をおすすめします。
この自分のスキルの洗い出し作業は転職するときも、そのまま会社に残る場合でも、今後のキャリアプランを考えるうえでとても重要です。
退職後に知ったのですが、ここまでで書いてきたスキルの洗い出し作業は、厚生労働省が提供するジョブ・カード、job tagのサイトを使うと簡単にできます。
転職支援サイトや転職エージェントに登録することなく、簡単に自己分析ができるためオススメです。
マイジョブ・カード https://www.job-card.mhlw.go.jp/
job tag https://shigoto.mhlw.go.jp/User/
保有資産と住宅ローンなど債務の確認
保有資産が少ない場合や住宅ローン、奨学金などの債務がある場合、いくら割増退職金をもらえるといっても、その後の転職がうまくいくか分からない状況では退職に応じることは出来ないでしょう。
- 保有資産と債務を書き出す
- 年金額の確認
- 今後必要になるお金を書き出す(教育資金、老後資金など)
- 退職金+割増金で何年暮らせるか計算
- 失業手当の受給額と期間を確認する
上記のお金の計算をして、退職した場合の生活をシミュレートしてください。
一般的に希望退職や退職勧奨に応じた場合、通常の退職金の他に上乗せがある場合が多いです。
企業によっては最初の面談の際に、退職金と上乗せ分の合計額と、退職金にかかる税金の試算書をくれる場合があるので確認しておきましょう。
子供がいる、病気がちな家族がいる、配偶者が専業主婦・主夫、退職金だけではローンを返済しきれない場合などはリスクが大きいため、今の会社に残留したほうが良いでしょう。
年金額のシミュレーション
会社勤めをしている間は厚生年金に入っていますが、もし退職してその後働かない場合、60歳(または65歳)までは国民年金に加入することになります。
退職して国民年金に加入する場合、当然ながら残り期間が長ければ長いほど厚生年金に加入し続けた場合に比べて将来的にもらえる年金額が減ります。
仮に転職した場合でも、転職後の給与が現職よりも低ければ将来的な年金額は減ります。
そういう意味では現在管理職などで高い給与を貰っている人ほど、退職時のリスクが高いと言えます。
年金の加入情報や将来的に貰える年金額は、ねんきん定期便、またはマイナンバーカードを持っている場合はマイナポータルのアプリなどから確認することができます。
デジタル庁 年金に関する情報の確認と申請について
https://myna.go.jp/html/pension_qualification.html
ローンの返済や教育資金、老後資金などのシミュレーションを自力でするのが難しい場合は、ファイナンシャルプランナーなどに相談してみると良いでしょう。
転職サイトで希望職種の募集有無を確認
転職サイトやハローワークで希望職種の募集があるか、給料はどれくらいかを確認しましょう。
そもそも希望職種の募集が少ない場合は、自分のスキルと照らし合わせて、他の職種も検討してみましょう。
なかなか良い職が見つからない、自分にあっている職が分からない場合は転職エージェントやコンサルタントなどに相談してみると良いでしょう。
家族や知人に相談
家族がいる場合は必ず家族に相談しましょう。
辞める辞めないに関わらず、相談なしに決めることで酷い場合だと離婚問題にまで発展するかもしれません。
家族だけだと希望・要望ばかり言われて、相談ができない場合は知人や転職コンサルタントなどに相談してみましょう。
頭の中で考えているだけより、実際に口に出して筋道立てて説明する方が考えがまとまりやすいです。
希望退職・退職勧奨に応じて良い人、悪い人
希望退職や退職勧奨を受ければ通常より多くの退職金をもらえて魅力的です。
しかし安易に辞めると後悔することが多いのもまた事実です。
退職に応じて良い人
- そもそも退職しようと思っていた
- 市場価値の高いスキルをもっている
- 仕事以外にやりたいことがある
- 共働きでしばらく失業状態でも大丈夫
- 資産が十分にあり、退職しても問題ない
- 退職日までに転職先が見つかっている
- 家族の了解が得られている
- 定年が近く、再雇用で働く気がない
退職に応じないほうが良い人
- 住宅ローンなどの債務額が多い
- 教育資金、老後資金など不安がある
- 自分のスキルに不安がある
- 年齢が高く、転職先があまりない
- 自分を客観的に評価できない人
面談で残留か退職か意思表示する
今の会社に残留する場合
会社としては辞めてもらいたいので、どうにか退職するように厳しいことを言ってきます。
しかし、残留すると決めたからには鋼の意思で拒否し続けてください。
想定される質問にはキッチリ答えられるように、ご自身の考えを整理して面談にのぞみましょう。
筆者の同僚で会社に残留した人が退職拒否したときの問答実例です。
どんなに悪く言われても「この会社でこれまで以上に成果を出します!」「退職する気はありません!」と言い続けることが大事です。
あなたが残ってどんな成果をだせるのか?
今取り組んでいる業務がもう少しで〇〇という成果を出せる段階に来ています。
今後はそれをさらに発展させて△△という状態までもっていきます。
今の業務は縮小するので、任せる仕事が無くなります。
今の業務がなくなるのは残念です。しかし私には□□というスキルもあります。
新しい業務にも真摯に取り組み、必ず会社に貢献してみせます。
他の会社に行った方が評価されると思います。
この会社で◇◇のスペシャリストになりたいので、他に行く気はありません。
残留する場合、面談は複数回設定されやすい
残留する場合、面談は一回では終わらず、日を置いて何度も面談をすることになりがちです。
必ず毎回、ハッキリと「辞める気はない」と伝えてください。
会社側はどうにか辞めてもらおうといろいろ言ってきますが、希望退職や退職勧奨では従業員本人が望まない状態で退職させることは出来ません。
残留するなら降格・異動・給料を減らすは無効
残留の意思表示をしたことで、会社側から「希望退職を拒否するなら、降格させて基本給を減らす」「残ったとしても、地方に転勤させる」と言われることもあるかもしれません。
しかし、これらの脅しは基本的に無効です。
希望退職や退職勧奨を拒否した結果、一方的に労働条件を下げられた場合は損害賠償を請求できる可能性があります。
会社側も訴訟のリスクは分かっているため、実際にハッキリと脅されることはあまりないでしょう。
万が一、脅された場合は面談内容のメモ、音声、メールなどの履歴をもって弁護士に相談してください。
ただし、就業規則などに労働条件の変更についての記載がある場合、会社にいる間は異動や給料改定があることを合意しているとみなされるので注意が必要です。
一度の会社の就業規則には目を通しておきましょう。
労働条件変更に合意しているとみなされる例
「業務の都合により、配置転換、職務の変更、転勤、出向その他人事上の異動を命じることがある」
「会社の業績や従業員の勤務成績、職務の達成状況等を勘案し、従業員の基本給の見直しをおこなう」
「会社の業績や世間相場などを勘案した上で、基本給テーブルの見直しをすることがある」 など
退職する場合
希望退職・退職勧奨に応じる場合は、面談の際に「退職する」と返事しましょう。
その時は再度、退職条件の確認を行ってください。
退職までの業務の引継ぎ、有給休暇を使って何日前から出社しなくなるなどのスケジュール調整も行います。
- 退職割増金はいくらか
- 割増金を含めた退職金にかかる税金はいくらか
- 転身支援の内容
- 特別休暇の付与はあるのか
- その他に何か優遇はあるのか
- 退職を受け入れた場合のスケジュール(退職日、退職金振り込み日など)
- 確実に会社都合退職になるのか
- 退職の際に何か制約はあるのか
退職願いは基本不要
希望退職・退職勧奨の場合、退職願は提出しない場合が多いです。
といいつつ、筆者の在籍した企業では退職願を提出する必要がありました。
ネット情報と違ったので、かなりしつこく「本当に会社都合になりますよね?」と確認してから書きました。
筆者の在籍した企業ではキャリア支援プランという、希望退職なのか退職勧奨なのかよくわからない名称の制度だったため、制度名をそのまま退職理由に記入しました。
退職を決意した瞬間から転職活動を開始する
希望退職・退職勧奨に応じて退職する旨を会社に伝えると、転職支援会社(リクルート社、パソナ社など)に社員の情報を渡し、転職活動のサポートをお願いすることに対する同意書も渡されると思います。
しかし、わざわざ同意書を出して転職支援会社から連絡が来るのを待つ必要は特にありません。
既に転職サイトに登録し、転職活動を行っている場合でも再就職支援サービスは受けることができます。
さらに言えば再就職支援サービスの利用自体を断ることもできます。
基本的に希望退職・退職勧奨の対象となるのは40代以上の中間層や管理職です。
年齢が上がるほど再就職が厳しいのが現実ですので、退職を決意したら少しでも早く転職活動を開始したほうが良いです。
特に希望退職の場合、あっという間に退職日がやってくるので、立ち止まっている暇はありません。
退職でも追加の面談がある場合
退職する意思表示をしたあとも時間をおいて再度面談がある場合があります。
筆者の在籍した企業では、希望退職の公示から締め切りまで3か月程度の期間がとられていたため、退職の意思表示から半月~一か月後に退職の意思が変わっていないかの確認面談がありました。
退職の意思に変わりがない場合、この面談はただの状況確認と世間話で終わります。
希望退職・退職勧奨はキャリアの見直しをするチャンス
希望退職・退職勧奨の対象になるというのは短期的にみると精神的なダメージが大きく、マイナスなイメージがあるかと思います。
しかし、自分のスキルや今後のキャリアと真正面から向き合うことになるため、退職するにしろ残留するにしろ、その後の社会人人生に対する心構えが大きく変わる転換点になります。
今回の希望退職・退職勧奨には応じず残留を決めた場合でも、数年後にまた希望退職・退職勧奨の対象者となるかもしれません。
その時に少しでも心に余裕を持てるように、ご自身のスキルアップと資産形成をしていくことをおススメします。
同業他社の求人情報もチェックしてみよう
希望退職などの人員削減が行われると、本当は辞めたくないのに退職を迫られることもあります。
希望退職や早期退職を持ちかけられるのは大抵40代や50代、一番お金が必要な世代です。
割増退職金で多くのお金をもらえるとしても、できれば次の会社でも現職と同等か多い給料が欲しいものですよね。
希望退職が実施されたら、まずは同業他社の求人情報をチェックしてみましょう。
意外と同じような業務内容で年収アップしそうな求人が出てきますよ。
今時の転職活動は、転職サイトや転職エージェントの活用が必須です。
転職サイト・転職エージェントは登録無料です。
まずは、気軽に情報収集から始めてみましょう。