退職を考える時に、「自己都合退職」と「会社都合退職」の違いは非常に重要なポイントです。
会社都合退職ならば、退職金の上乗せ、失業保険の支給条件、国民健康保険の保険料軽減などのメリットがあります。
自己都合か会社都合かは、会社が作成した離職票を基にハローワークが判断します。
このとき、会社側は「自己都合」とした場合でも、「会社都合」に変更できる場合があります。
ただ、手ぶらでハローワークに行って訂正申請を行っても、会社都合に変更してもらえる可能性は低いです。
会社都合に変更するだけの事由である証拠を提出する必要があります。
この記事では、自分の退職理由を会社都合退職に変更するための手順を紹介し、成功するための具体的な方法と注意点を解説します。
自己都合退職と会社都合退職の違い
退職時に次の職場が見つかっている場合、自己都合退職だろうと会社都合退職だろうと関係ありません。
会社都合退職であることがメリットとなるのは、退職時に次の職が決まっておらず、無職の期間が生じる場合です。
自己都合退職とは
自己都合退職とは、労働者自身の意思によって会社を辞めることです。
主な理由としては、結婚や出産、転職、健康問題などです。
自己都合退職の場合、退職金や失業保険の給付額や期間が制限されることが多いです。
また、自己都合退職後は失業保険の給付開始が待機期間終了後からさらに2ヶ月後となるため、経済的な準備も必要です。
会社都合退職とは
会社都合退職とは労働者が自己の意思に基づかず、企業側の何らかの都合によって退職させられることを指します。
具体的な例としては、会社の業績悪化による整理解雇、経営効率化のための希望退職や退職勧奨人員などが含まれます。
これらの退職理由は、企業の経営戦略や経済状況による場合が多いです。
会社都合退職は、失業保険の給付期間や手当の受給開始時期において自己都合退職と異なり、有利な条件が適用されることが一般的です。
会社が自己都合にしたがる理由
会社が自己都合退職にしたがる最大の理由は、雇用に関する厚生労働省からの助成金が支給されなくなってしまうからです。
特に経営が厳しい中小企業においては、離職理由が自己都合退職であるか、それとも会社都合退職であるかは会社にとっても大きな問題となりえます。
そのため、従業員に対し「会社都合退職では再就職が厳しい」などと圧力をかけて、自己都合退職とする会社は多いです。
会社都合退職にできるケース
事業所の閉鎖・解雇など
事業所の閉鎖や、経営不振による大量解雇、リストラなどの理由で退職を余儀なくされた場合は、会社都合退職となります。
具体的には、会社が倒産した場合、事業所が閉鎖される場合、経営上の理由で多数の従業員が解雇される場合などです。
これらの場合には、退職理由が会社の都合であることが明白なので、悩むことはないでしょう。
労働条件の変更・不利益取り扱い
勤務条件や待遇が突然変更された場合や、不当な給与カットが行われた場合は、会社都合退職に該当する可能性があります。
たとえば、業務内容が大幅に変更され、それに伴い労働条件が悪化した場合や、無断で給与が引き下げられた場合などがこれに該当します。
これらのケースでは、会社の都合で退職を余儀なくされたと判断されることがあります。
パワハラ・セクハラなどのハラスメント
パワーハラスメントやセクシャルハラスメントなどのハラスメント行為が原因で退職を選択せざるを得なかった場合も、会社都合退職に該当する可能性があります。
例えば、上司や同僚からの継続的な嫌がらせや暴言、性的な嫌がらせが原因で精神的に疲弊し、退職に至った場合などです。
このようなハラスメントは労働環境の大きな悪化を招くため、会社側の責任が問われることになります。
その他の正当な理由
その他にも、会社都合退職に該当する正当な理由は多岐にわたります。
例えば、安全な労働環境が確保されていない場合や、長時間残業が強制される場合、または正当な理由なく休職や転勤が命じられた場合などです。
これらの状況は、適切な労働環境が提供されていないと判断されるため、会社都合退職として扱われることがあります。
具体的な証拠があれば、労働組合や専門家への相談を通じて適切な対応を求めることが重要です。
- 労働契約の締結に際し明示された労働条件が事実と著しく相違する
- 賃金の額の 3 分の 1 を超える額が支払期日までに支払われなかった月が2か月以上連続、又は離職の直前 6 か月の間に3か月ある
- 従来の賃金の85%未満に低下(労働者が低下の事実について予見し得なかった場合に限る)
- 離職の直前 6 か月間のうちに 3 月連続して 45 時間、1 月で 100 時間又は 2~6 月平均で月 80 時間を超える時間外労働が行われたため、又は事業主が危険若しくは健康障害の生ずるおそれがある旨を行政機関から指摘されたにもかかわらず、事業所において当該危険若しくは健康障害を防止するために必要な措置を講じなかったため離職した者
- 職種転換等に際して、当該労働者の職業生活の継続のために必要な配慮を行っていないため離職した者
- 更新前提だった雇用契約が更新されない
- 上司・同僚からのセクハラ、パワハラ、いじめ、嫌がらせ
- 会社都合で休職命令を受け、休業が3カ月以上続いた
- 会社が法令違反を犯した
厚生労働省 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準
証拠の収集
離職理由の判定について、厚生労働省では下記のように説明されています。
離職理由の判定は、
①事業主が主張する離職理由を離職証明書の離職理由欄により把握した後、離職者が主張する離職理由を離職票-2 の離職理由欄により把握する
②それぞれの主張を確認できる資料による事実確認を行う
その上で最終的にハローワークが判断します。
したがって、事業主又は離職者の主張のみで判定するものではありませんので、離職理由を確認できる資料の持参をお願いしております。厚生労働省 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準
希望退職や退職勧奨などの場合は、離職票にその旨が記載されるため、特に資料がなくても会社都合退職としてすんなり認められます。
問題は労働条件の変更・不利益取り扱い、パワハラ・セクハラなどのハラスメント、その他の正当な理由の場合です。
これらの場合、「不満をもった社員が自分から辞めた」とする会社と、「会社側の問題で辞めた」とする従業員側で意見の食い違いが起こります。
その場合は手ぶらでハローワークに行って「会社都合に変更してほしい」と訂正申請をしても上手くはいきません。
証拠となるメールや音声、書類などを揃えて会社と話し合いをする必要があります。
必要な証拠については下記資料の3ページ目以降に記載があります。
厚生労働省 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準
会社都合に変更するのに必要な労力や時間・ストレスと、気持ちを変えて次の職を探すのではどちらが良いか、天秤にかけて考えてみる必要があります。
単に会社の待遇改善や仕返しなら、労働基準監督署に相談して、会社に対して指導勧告してもらうという手もあります。
メールや書類の保存
まずは、メールや書類などの文書証拠をしっかり保管しておくことが大切です。
特に、給与明細や会社からの通知、内部メモなどは重要な証拠となります。
また、不当な給与カットや労働条件の変更が行われた際のやり取りについても、すべて保存しておきましょう。
録音や映像の記録
次に、音声や映像の記録を活用する方法があります。
ミーティングや上司との面談、パワハラやセクハラの現場などを録音や映像で記録しておくことは非常に有効です。
これによって、言葉や態度を裏付ける具体的な証拠が得られます。
ただし、録音や映像の記録は法律に抵触しないよう配慮することが必要です。
第三者の証言
さらに、第三者の証言も有力な証拠となります。
職場の同僚や他の社員、場合によっては取引先などの外部の人からも協力を得られると強力です。
不当な扱いを受けた事実について、第三者が証言してくれることで、客観的な証拠としての信頼性が高まります。
労働組合や専門家への相談
会社都合退職と認定されるためには、証拠収集だけでなく、必要な場合には適切な専門家に相談することが重要です。
個人の力だけで会社と話し合って、自分に有利な条件を認めさせるのは労力の面でも精神面でも大変なことです。
ここでは、労働組合の活用と、弁護士や社労士などの専門家へ相談する方法について解説します。
労働組合の活用
労働組合は、労働者の権利を守るための団体であり、自己都合退職を会社都合退職に変更するための力強い味方になります。
まずは、所属している労働組合に相談することで、現在の状況を正確に伝え、必要なサポートを得ることができます。
会社に労働組合が存在しない場合でも、全国的に活動している労働組合もありますので、そちらに相談してみるのも一つの方法です。
労働組合は、労働条件の不利益変更や不当解雇に対する交渉力があり、会社との対話を円滑に進めることができます。
弁護士や社労士への相談
パワハラや不当解雇、その他のトラブルが絡む場合は、労働問題に詳しい弁護士や社会保険労務士(社労士)への相談が適しています。
これらの専門家は、法的な観点から状況を分析し、適切な助言や対応策を提供してくれます。
弁護士に相談する場合、初回の相談料が無料の場合もありますが、事前に料金体系を確認しておくと安心です。
また、社労士は労働法に精通しており、労働条件の変更や雇用契約に関連する問題について専門的なアドバイスを受けることができます。
専門家への相談は、労働者自身が交渉を行う際の心理的な負担を軽減する大きな助けとなり、適切な手続きを踏むための強い味方になります。
自分の権利を守るためにも、必要に応じて専門家に相談することをお勧めします。
会社との交渉
会社との交渉は、自己都合退職を会社都合退職に変更するための重要なステップです。
この手順では、効果的な交渉を行うための準備と、交渉中に気を付けるべきポイントを詳しく解説します。
交渉のポイント
交渉が始まったら、いくつかのポイントに注意しながら進めることが大切です。
まず、冷静かつ客観的な態度を保つことが重要です。感情に流されず、論理的に話を進めるよう努めましょう。
また、具体的な事実を元に話を進めることが効果的です。
証拠を示しながら、自身の主張を根拠づけることで、相手に納得してもらいやすくなります。
例えば、パワハラや不当解雇があった場合、その詳細を明確に説明し、証拠を提供することで会社側の理解を得やすくなります。
さらに、双方にとって納得できる合意を目指す姿勢が不可欠です。
交渉のゴールは、双方が納得できる解決策を見つけることですので、相手の立場や意見にも耳を傾けながら進めることが大切です。
注意すべき点
交渉に臨む上で、いくつかの注意点があります。
まず、法律的な知識をしっかりと持っておくことが重要です。
自分の権利や会社側の義務を理解し、不当な扱いを受けないようにしましょう。
また、交渉が難航した場合には、第三者の仲裁を依頼することを検討しましょう。
例えば、労働組合や労働局といった機関に仲裁を依頼することで、解決の糸口が見えてくるかもしれません。
最後に、文書化の徹底も忘れずに行いましょう。
交渉の内容や合意事項をしっかりと記録に残すことで、後々のトラブルを防ぐことができます。
文書での証拠があると、相手側も合意事項を守らざるを得なくなります。
ハローワークへの訂正申請
会社都合退職に変更するためには、ハローワークなどの行政機関への申請が必要です。
必要な書類の準備
ハローワークに申請する際に必要な書類は、以下の通りです。
- 離職票
- 労働契約書や就業規則の写し
- 労働条件の変更を証明する書類(給与明細やメールなど)
- ハラスメントの証拠(録音や映像など)
- 第三者の証言(同僚や労働組合の証言があると有利です)
必要な証拠については下記資料の3ページ目以降を参考にしてください。
厚生労働省 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準
これらの書類は、会社都合退職を証明するために重要ですので、しっかりと準備しておきましょう。
特に就業規則は社内でしか閲覧できない可能性が高いので、忘れずに印刷するようにしましょう。
申請の流れ
申請の流れは以下のステップで進みます。
- ハローワークに訪問し、必要書類を提出します
- 提出した書類をもとにハローワークの担当者が審査を行います。この際、追加の証拠や説明が求められることもあります。
- 審査が通れば、会社都合退職として認定され、失業保険の給付条件が変更されます。
- 認定後、通常の失業保険の手続きと同様に給付を受けることができます。
このプロセスはすべてハローワークがサポートしてくれるため、手順に不安がある場合は、事前に相談しておくと良いでしょう。
当然ながら、証拠を提出しても会社都合と認められない場合もあります。
会社都合に変更するのに必要な労力や時間・ストレスと、気持ちを変えて次の職を探すのでどちらが良いか、天秤にかけて考えてみる必要があります。
まとめ
会社を退職する際、「自己都合退職」と「会社都合退職」の違いは、働く人の今後の生活に大きな影響を与えることになります。
特に失業保険の給付額や支給期間、さらには退職金にも関わってくるため、その重要性は高いです。
会社都合退職の場合、倒産やリストラ、不当な給与カットなどが理由となり給付条件が優遇される一方、自己都合退職は結婚や転職、健康問題等、労働者自身の意思による退職であり、支給条件が厳しくなります。
退職理由が会社都合であるにもかかわらず自己都合退職とされた場合、訂正を求める手続きが可能です。
労働条件の変更や不利益取り扱い、パワハラやセクハラなどのハラスメント、さらには事業所閉鎖や解雇などの理由があれば、証拠をしっかり収集し、労働組合や弁護士など専門家に相談することが重要です。
そして、会社との交渉を経て、行政機関への申請を行うことで退職理由を正しく訂正することが可能となります。
これから退職を考えている方々には、まずは自身の退職理由がどのような条件に該当するかをしっかりと確認し、適切な手続きを踏むことが大切です。
ただ、自己都合を会社都合に変えるのはかなりの労力を必要とします。
悔しいかもしれませんが、さっさと見切って次の会社に転職したほうがいい場合もあります。
慎重に準備を行い、専門家の助けを借りながら、最善の結果を目指してください。