2024年に入って以降、希望退職制度の実施報道が増えています。
特に大企業の人員削減のニュースは削減の規模が大きいだけに注目を浴びています。
数千人規模の人員削減と聞くと不安になる方も多いでしょう。
本記事では、2013~2023年までの10年間で、国内の正社員を対象に複数回の人員削減を繰り返している企業と応募人数をまとめています。
また、人員削減を繰り返す原因と、人員削減実施後の社内の状況について、筆者の体験も踏まえてお伝えします。
2013年からの10年間で人員削減を複数回実施した企業
2013年~2024年にかけて、国内で希望退職者募集や早期退職優遇制度などの人員削減を複数回実施した主な企業をまとめました。
このデータの対象は応募者数を公表した国内企業のみになります。
人員削減策の実施を発表したものの、最終的な応募者数を公表していない企業は含みません。
なお、業種は東証の33業種分類を参考にしています。
社名 | 業種 | 実施年 | 応募人数 | 合計人数 |
---|---|---|---|---|
富士通 | 電気機器 | 2013 2019 2022 | 2,454 2,850 3,031 | 8,355 |
ルネサスエレクトロニクス | 電気機器 | 2013 2014-1回目 2014-2回目 2014-3回目 | 2,316 696 361 1725 | 5,098 |
東芝 | 電気機器 | 2016 2019 2021 | 3,449 823 452 | 4,724 |
JT(日本たばこ産業) | 食料品 | 2015 2022 | 1,754 2,868 | 4,622 |
パイオニア | 電気機器 | 2013 2019 | 716 950 | 1,666 |
大正製薬 | 医薬品 | 2018 2023 | 948 645 | 1,593 |
ジャパンディスプレイ | 電気機器 | 2018 2019 | 290 1,266 | 1,556 |
LIXIL | 金属製品 | 2020 2021 | 497 965 | 1,462 |
日立電線 →日立金属に吸収合併 | 2013-1回目 2013-2回目 | 1,112 160 | 1,272 | |
サニックス | サービス業 | 2015-1回目 2015-2回目 2016 | 609 229 391 | 1,229 |
スズケン | 卸売業 | 2017-1回目 2017-2回目 2021 | 423 174 511 | 1,108 |
TSIホールディングス | 繊維製品 | 2015 2021 | 528 351 | 879 |
ワールド | 繊維製品 | 2015 2020 2021 | 453 294 125 | 872 |
三陽商会 | 繊維製品 | 2013 2016 2018 2021 | 270 249 247 180 | 946 |
エーザイ | 医薬品 | 2014 2019 | 396 300 | 696 |
中外製薬 | 医薬品 | 2019 2023 | 172 374 | 546 |
ワコール | 繊維製品 | 2022 2024-1回目 2024-2回目 | 155 215 | |
トーアエイヨー | 医薬品 | 2023 2024 | 61 111 | 172 |
田辺三菱製薬 | 医薬品 | 2015 2024 | 634 | |
協和キリン | 医薬品 | 2019 2024 | 296 | |
東北新社 | 情報・通信 | 2024-1回目 2024-2回目 2024-3回目 | 11 124 |
上の表には載せていない、大企業のグループ会社での人員削減
東 芝:東芝テック(2020)と東芝デバイス&ストレージ(2019)で合わせて879人の人員削減
日 立:日立化成、日立マクセル、日立建機で合わせて1,900人の人員削減
富士通:富士通フロンテック(2019)で159人の人員削減
人員削減の法的側面
日本の労働法と人員削減
日本の労働法では、人員削減に関する規定が厳しく定められています。
その一環として、企業はまず労働者との間で労使協議を行い、可能な限り解雇を避けるための方策を講じる必要があります。
また、解雇予告手当の支払い義務や、適正な理由の提示が必要です。
たとえば、東芝が2023年に行った人員削減では、労働者代表との協議を行い、契約社員の削減やキャリア採用の凍結などを検討したうえで、人員削減数を最小限に抑える努力が見られました。
人員削減とリストラ
日本では「リストラ」という言葉がよく使われます。
リストラ(リストラクチャリング)は、企業が事業の再編や経営効率化を目的として行う一連の対策を指し、必ずしも解雇を伴うものではありません。
部門の統廃合や人員配置の見直しで終わる場合もあります。
一方、人員削減は文字通り人員を減らすための手段全般を言います。
主な人員削減の例
・新卒採用、中途採用の停止
・早期定年退職制度の導入
・希望退職、退職勧奨の実施
・整理解雇
このなかでも整理解雇は、企業の経営悪化や事業再構築のために労働者を解雇することを意味します。
これには明確な基準があり、たとえば経営の必要性、解雇回避努力の実施、合理的な選定基準の適用、労使間の十分な協議が求められます。
人員削減の主な原因
経済的要因
経済的要因は、人員削減の主な原因の一つです。
企業は景気変動や市場の不確実性に直面することがあり、それに伴ってコスト削減のために人員削減を余儀なくされることがあります。
例えば、リーマンショックやコロナ禍のような世界的な経済不況や金融危機は多くの企業にとって深刻な影響を及ぼし、大規模なリストラが行われることが珍しくありません。
このような経済的要因は企業の生存をかけた決断であり、社員の士気に悪影響を与える可能性が高いです。
技術革新
技術革新も人員削減の原因となる要因です。
新しい技術や自動化システムの導入は、従来の業務を効率化し、何らかの形で人手を必要としなくなる可能性があります。
例えば、AI(人工知能)やロボティクスの導入により、多くのルーチン業務が自動化されることがあり、結果的に人員削減が実施されることがあります。
経営戦略の変更
経営戦略の変更も人員削減の重要な要因です。
企業は時折、組織の再編や事業の転換を図るために新しい戦略を打ち出します。
例えば、不採算部門の閉鎖や新規事業への参入など、経営戦略の大幅な変更が必要な場合があります。
このような状況では、旧来の業務に従事していた人員が不要となり、結果的に人員削減が行われることがあります。
経営戦略上の人員削減は業績が好調である場合でも実施されます。
企業として体力があるうちに、特定の職種や年齢層に対する希望退職を実施して、組織のスリム化を図るのです。
黒字経営ならば、割増退職金をだせる余力もあるので、将来的に不要になる社員に円満に退職してもらうことができます。
社員に与える心理的影響
社員の不安とストレス
人員削減が企業内で発表されると、社員の間に広がるのは「不安」と「ストレス」です。
最近報道されているような東芝や資生堂、オムロンなどの大企業で大規模なリストラ案が検討されると、その影響は計り知れません。
特に、企業からの詳細発表前に情報が漏れ広まった場合、社員間の疑心暗鬼や噂が広がり、心理的なプレッシャーが一層強まることになります。
この結果、集中力が欠けることや業務効率が低下することが多く見られます。
また、一部の社員は自分が次に解雇されるかもしれないという恐れから、職場を軽視し始めることもあります。
結果として、希望退職の対象となる人だけでなく、対象年齢よりもしたの若年層の社員の退職も増えることがあります。
運よく退職せずに会社に残れたとしても、社員が減ったせいで一人当たりの業務量が増えてしまいます。
次の人員削減で対象にならないように頑張って仕事をしすぎて、心身ともに疲れて休職してしまう人もでてきます。
企業のブランドイメージへの影響
人員削減は企業のブランドイメージにも悪影響を及ぼす可能性があります。
特に頻繁に人員削減を実施する企業は、経営が不安定であるとの印象を市場に与えます。
新しい顧客や優秀な人材を引きつけることが難しくなるだけでなく、既存の顧客や社員も企業への信頼感を失うことがあります。
繰り返される人員削減は、長期的なビジネス成長にも深刻な影響を及ぼすことが懸念されます。
また、企業としての持続可能な成長には、社員の知識とスキルが不可欠です。
しかし、人員削減の過程で経験豊富な社員や将来有望な人材が失わてしまい、企業の知識資産が減少し、ビジネス競争力が低下することも起こり得ます。
更に、頻繁な人員削減は企業文化やチームワークにも悪影響を与えます。
社員同士の信頼関係が崩れると、新しいプロジェクトやイノベーションの進展が難しくなり、結果的にビジネスの成長が停滞するリスクがあります。
実は筆者も人員削減された側 ×2回
この記事を書いている筆者は勤続14年、39歳の時に退職勧奨を受けた化学系開発エンジニアです。
そんな筆者の在籍した企業も、10年ほど前に誰もが知る大手電機機器メーカーから人員削減の一環として切り捨て・売却されました。
「本社から捨てられた」「売却された」というと、世間一般ではかなりネガティブな印象を抱かれます。
社員の気持ちとしても落ち込みます。
せっかく頑張って〇〇社の社員になった!と思っていたのに、頑張っていた自分たちの部門が売却されるのですから、失恋したような気分です。
でも考え方を変えてみると、売却できる部門や子会社というのはある程度利益があったり、将来性がある事業内容ということです。
将来性がない会社をわざわざ買い取ってくれるような企業はいません。
買い取ってもらえない不採算事業はどうなるか?
事業の縮小で済めば良いところで、事業終了や最悪の場合は事業所丸ごと閉鎖で、異動先がない人は退職勧奨か整理解雇です。
筆者の在籍した部門は独立して、その後紆余曲折がありながらも東証プライムに上場しています。
本社の方もその後業績がV字回復したので、捨てられた側としては「ちょっと悔しいけど、まぁ良かったね」という気持ちです。悔しいけど。
書いていて思いましたが、14年しか在籍していなかった割には結構ひどい目にあっていたと今更実感しました。
まとめ
人員削減を繰り返す企業というのは結構あります。
体力のない企業の場合は残念ながらそのまま会社が傾く場合もありますが、大企業の場合は経営のスリム化によって業績が回復する場合も多いです。
ただ人員削減実施の報道後に社内の雰囲気が悪くなるのは避けられません。
また、業績回復後も人員が増えないままでいると一人当たりの業務量が増えて、結果として体調を崩して休んでしまう社員や、そのまま退職してしまう社員も出てきます。
会社が提示した希望退職や退職勧奨に応じて去るのも大変ですし、そのまま会社に残るのもどちらも大変です。
自分のスキルや健康面、家庭のことなど諸々を考えて、退職するかどうかをきめる必要があります。
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希望退職などの人員削減が行われると、本当は辞めたくないのに退職を迫られることもあります。
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