退職後の生活設計において、退職金の取り扱いは重要な要素の1つです。
退職金を受け取ると所得税や住民税などの税金が課されるため、適切な対応が必要となります。
退職金を受け取った際の税金の仕組みや計算方法、節税対策など、退職金に関する知識を詳しく解説していきます。
退職金にかかる税金の種類と計算方法
退職金を受け取る際には、所得税と住民税の支払いが必要となります。
退職金の税金は、一時金で受け取る場合と年金で受け取る場合で異なる税金の種類と計算方法があります。
一時金(一括)で受け取る
- 控除額が大きい
- 手持ち資金が増える
- 社会保険料がかからない
- 勤続年数が少ない場合、恩恵が少ない
年金(分割)で受け取る
- 公的年金等控除が使える
- 浪費を予防できる
- 社会保険料がかかる
- 控除額が小さい
- インフレリスクがある
勤続年数が多い人は、控除額の大きい一時金での受け取りがおススメです。
場合によっては全額非課税で受け取れる可能性もあります。
もらった退職金を元手に上手く資産運用をすることができれば、さらに老後に余裕が出ます。
一方、分割して年金で受け取る場合は公的年金等控除が利用できます。
公的年金等控除の範囲に収まれば、所得税や住民税はかかりません。
ただし、公的年金等控除は退職金だけでなく、公的年金やiDeCo(イデコ)・企業型DC(確定拠出年金)の年金も含めて計算されるため、控除額をオーバーする可能性があります。
更に、分割して年金として受け取る場合、一時金ではかからなかった社会保険料が発生します。
一気に大金を得たときの自身や家族の浪費が心配な人以外は、基本的には退職一時金として受け取るのがおススメです。
一時金(一括)で受け取る場合の税金
退職金を一時金でまとめ受け取る場合には、所得税と住民税が課税されます。
具体的な計算方法は以下の通りです。
所得税の計算
退職金の税金は、退職所得として計算されます。
退職所得金額から退職所得控除を差し引いた金額の2分の1に対して所得税が課税されます。
退職所得控除は、勤続年数によって異なります。勤続年数が20年以下の場合は勤続年数×40万円(最低80万円)、20年超の場合は800万円+(勤続年数-20年)×70万円となります。
例:退職金が2,500万円で勤続年数が30年の場合
退職所得控除 = 2500 ー { 800 + ( 30 ー 20 ) × 70 } = 1500万円
したがって、退職所得は2,500万円から1,500万円を差し引いた1,000万円となります。
この1,000万円の2分の1、つまり500万円が所得税や住民税の課税対象となる「退職所得」となります。
復興特別所得税は、所得税の2.1 %として計算されます。
計算が面倒臭い場合は、下記サイトで簡単に計算できます。
Keisan! https://keisan.casio.jp/exec/system/1292387069
住民税の計算
住民税は課税所得に対して10%がかかります。
なお、通常の給与所得では均等割(5,000円)が課税されますが、退職所得に関しては均等割は課税されません。
例:退職金が2,500万円で勤続年数が30年の場合
退職所得 = 500万円
退職所得にかかる住民税 = 500 × 10 % = 50万円
退職金を受け取る際には、自身の状況に合わせて最も有利な受け取り方を検討しましょう。
また、ファイナンシャルプランナーや専門家の意見も参考にしながら、退職金を上手に活用することが大切です。
退職翌年の住民税が高く感じる理由
退職後に退職金を受け取ると、翌年の税金負担が高く感じられることがあります。
その理由は、住民税の仕組みと支払い方法が変わるためです。以下で具体的な理由について説明します。
住民税は前年の所得に対してあとから支払う
住民税は、前年の1月1日から12月31日までの所得に基づいて後から支払われる仕組みです。
そのため、退職後でも前年までの所得に応じた住民税を支払う必要があります。
在職中の給与が高かった場合には、退職前年の所得に基づいた高額な住民税が一度に支払われるため、税金負担を重く感じることがあります。
実際のところ、退職所得(退職金)に対する住民税は退職金が支払われる時に天引きされ、会社を通じて自治体に納付されています。
なので退職の翌年に届く納付書の額面は、退職所得以外の所得に対する住民税、つまりこれまで企業を通して納付していた額面と同じ(収入に変動がなければ)になります。
住民税は課税所得金額に10%をかけた金額から住宅ローン控除などの税額控除を引いた額 + 均等割5000円で求めることができます。
これまで住民税額を意識していなかった場合、額面を多く感じやすい
退職後の住民税の支払い方法が変わることも、翌年の税金負担を重く感じさせる一因になります。
在職中は給与から毎月天引きされていた住民税ですが、退職後は普通徴収に移行します。
普通徴収では、納付書に従って自分で銀行やコンビニで支払う必要があります。
自分で納付を行うことで、住民税の年額の多さに改めて気づくパターンは多いです。
退職金と税金の申告
源泉徴収票の確認と税金の申告は、退職金を受け取る際に重要な手続きです。
源泉徴収票は、退職時に雇用者(企業)から提供される書類であり、退職所得や源泉徴収税額などの情報が記載されています。
退職所得の受給に関する申告書
退職金を受け取る場合、退職所得にかかる所得税や住民税は源泉徴収として天引きされます。
その際、退職金の税金が正しく計算されるよう、退職所得の受給に関する申告書を提出します。
一般的には、退職する前に企業に提出します。
もし退職所得の申告書の提出を忘れてしまった場合、退職所得控除が適用されず、退職金の受け取り額から一律で20.42%の所得税が源泉徴収されてしまいます。
もし提出を忘れていた場合は、確定申告を行い所得税を精算する必要があります。
退職後の還付申告
確定申告の義務がない場合でも、納め過ぎた所得税がある場合は還付申告をすることができます。
- 退職所得の受給に関する申告書が未提出
- 年の途中で退職・転職して年末調整を受けていない場合
- ふるさと納税や寄付をした場合
- 住宅ローン控除をした場合
- 医療費控除を行う場合
- 退職後も社会保険料を納めている場合
- 災害などにあった場合
年の途中で退職や転職をしたときは、退職金の確定申告は不要でも確定申告をすることで給与所得に関して還付が受けられる可能性があります。
ただし、納税額が所得税や住民税の基礎控除額を下回る場合や、年間での収入が一定額以下の場合は、確定申告の義務はありません。
確定申告を行うかどうかは、自身の収入や控除額を確認した上で判断しましょう。
還付申告書は確定申告期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間提出することができます。
退職金受取時の特殊なケースと必要な対応
退職金を受け取る際には、特殊なケースに対応する必要があります。
退職金受取人の死亡時の対応
退職金受取人が亡くなった場合、死亡退職金として相続税の課税対象となります。
死亡退職金は、企業から源泉徴収(所得税の天引き)をされることはありません。
相続税の非課税限度額は、500万円 × 法定相続人で求めることができます。
1年で複数回の退職金を受け取る場合の対応
同じ年に転職をしたり、複数の企業に所属していたために2回以上の退職金を受け取る場合は、退職所得の申告書の提出に注意が必要です。
複数の企業に対して申告書を提出する場合は、申告書に順番を記載して提出しましょう。
また、既に受け取った退職金がある場合は、申告書に支払者の名称、退職金額、源泉徴収税額などを記入し、受け取った源泉徴収票を添付して勤務先に提出する必要があります。
ふるさと納税を活用した退職金の節税
ふるさと納税は、退職金の税金対策として有効な方法の一つです。
ふるさと納税を利用することで、退職金にかかる税金を抑えることができ、節税効果が期待できます。
ふるさと納税のメリット
ふるさと納税を利用すると、以下のようなメリットがあります。
- 住民税の税額控除を受けることができる
- 所得税の還付を受けることができる
- 寄付した金額の一部を返礼品として受け取ることができる
退職した年のふるさと納税の利用方法の注意点
退職金にかかる住民税はふるさと納税では控除できません。所得税は控除の対象となります。
退職金は給与のような前年の所得で計算される税金とは別に計算されるため、ふるさと納税の控除対象になりません。
ふるさと納税では、寄付先が5自治体までならば確定申告不要のワンストップ特例制度がありますが、退職金の場合はこの制度を利用できません。
もともとワンストップ特例制度で控除されるのは住民税だけであり、所得税は対象外となります。
そのため所得税しか控除対象とならない退職金に関しては、ワンストップ特例制度を利用しても控除を受けられません。
退職する年にふるさと納税を行っている場合は、退職所得の受給に関する申告書を提出していても、退職金にかかる税金の控除を受けるために必ず確定申告を行いましょう。
退職した翌年は、前年の高い給与で計算された住民税が課されるため、ふるさと納税をするメリットが大きいです。
まとめ
退職金の受け取り方や個人の状況に応じて、支払う税金が大きく変わってきます。
ふるさと納税を活用するなど、適切な節税対策を立てることで、税金を大幅に軽減できる可能性があります。
また、源泉徴収票の確認や必要な申告書の提出を漏れなく行うことも重要です。
退職金の活用には専門家に相談するなど、十分な準備をしましょう。
退職金の受け取りと活用は人生設計にも大きな影響を及ぼすため、慎重に対応する必要があります。