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失業保険の給付条件が変わる?政府が進める三位一体の労働市場改革の内容について解説

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新しい資本主義実現本部という言葉を聞いたことがありますか?
これからの国際社会で、日本が競争力を維持していくために必要な課題と対策について議論している政府の組織です。
この会議の中では競争力を上げていくために、三位一体の労働市場改革として①ジョブ型人事の導入、②リ・スキリング(学びなおし)の推進、③成長市場への労働移動の円滑化について、議論が進んでいます。
その中には失業保険制度の見直しや退職金控除額の見直しなども含まれています。

本記事では、新しい資本主義実現本部で取り上げられている課題のうち、雇用関連の項目について詳しく解説していきます。

新しい資本主義実現本部とは?

基本概念を解説

新しい資本主義実現本部は、「成長と分配の好循環」と「コロナ後の新しい社会の開拓」をコンセプトとした新しい資本主義を実現していくため、令和3年10月に内閣に設置されました。

今後の課題とされている主な項目

  • デフレからの脱却
  • ⽣産性・潜在成⻑率の低さ
  • 個々⼈のキャリアアップ、成⻑分野への労働移動
  • 中間層の伸び悩み(所得・消費)
  • 国際競争力の低迷
  • 基礎研究⼒など科学技術⼒の低下


社会的な課題に取り組むことが目的で、成長と共に社会課題を解決するための道筋を示すものであり、特に雇用に対する政策が重要視されています。
失業給付制度もこの新しい資本主義の枠組みの中で見直されることが期待されています。

新しい資本主義のグランドデザイン

令和6年6月に内閣が発表した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」を見ていきましょう。
この資料には投資についてや、今後の成長分野などいろいろと長々書いてあるのですが、今回は雇用関連の項目について取り上げます。

現在の日本の雇用課題として、以下のようなことを挙げています。

  • 終身雇用や転職に対する考え方が変化している
  • 年齢にかかわらず、能力を発揮して働ける環境整備が重要
  • ジョブ型人事の導入等により、定年制度、役職定年制を廃止した企業が増加傾向
  • 賃金カーブが少しずつフラット化しつつある


この課題を受けて、三位一体の労働市場改革として①職務内容を明確にして成果で評価する「ジョブ型人事」の導入、②リ・スキリング(学びなおし)の推進、③成長市場への労働移動の円滑化について、議論が進んでいます。

三位一体の労働市場改革

個々の企業の実態に応じたジョブ型人事の導入

日本の競争力を上げるためには、ジョブ型人事やポスティング制度の導入等を通じ、企業内での労働移動の円滑化を促す必要があります。
ジョブ型人事やポスティング制度が普及すると、年齢関係なしに優秀な人材や専門知識のある人材が抜擢されて高給を与えられます。
一方、スキルの無い人材はいつまでも給料が上がらないジリ貧の状態に陥ってしまいます。

またDX(デジタルトランスフォーメーション)やAIの普及に伴い、一般のホワイトカラー、事務職の労働需要が少なくなるおそれがあります。

これまでは「新卒一括採用中心、異動は会社主導、企業から与えられた仕事を頑張る」のが会社員として一般的でした。
与えられた仕事を行えば良いので社員としては楽ですが、自律的なキャリア形成が行われにくい欠点があります。
これからの日本では、スキルや経験の有無が給料に反映されやすい構造にシフトしていきます。
そのため政府はジョブ型人事への移行に際し、個々の職務に応じて必要となるスキルを設定し、スキルギャップの克服に向けて従業員が上司と相談をしつつ、自ら職務やリ・スキリングの内容を選択していく必要があるとしています。

リ・スキリングによる能力向上支援

日本では就業後に学びなおす機会はあまり多くありません。
リ・スキリング(学びなおし)をする人の6割は失業者というのが現状です。
在職者がリ・スキリングをする場合、企業経由が76.5%となっています。
個人が主体的にリ・スキリングをできるよう、5年以内を目途に過半数が個人経由での給付が可能となるようにして、在職者のリ・スキリング受講者の割合増加を図ります。

政府は人手不足が目立つ物流、建設・土木業、製品・機械等の製造・加工業、介護業、観光業、飲食業等といった職種について、スキル習得のための講座受講支援を実施する方針を打ち出しています。
また、若い労働者やデジタル化で仕事を失う恐れがあるホワイトカラーについても、デジタル分野などの講座数拡充専門知識の習得やリ・スキリングを政府が支援します。
リ・スキリングで技能を高めた労働者が、それを生かすために他企業、他業種に転職することも政府は支援予定です。

認定された検定に係るスキルの習得のための講座受講については、2024年秋から教育訓練給付の対象に追加し、政府として支援を行う予定です。
教育訓練給付については他にも、手続きのオンライン活用で受給までの効率化を図る方針です。

また、労働者の生活安定性を維持したままでリ・スキリングを進めるためにも、在職期間中のリ・スキリングの強化を推進していく方針です。
業種・企業を問わず、個人が取得したスキルの履歴の可視化を目指し、デジタルでの視覚情報の認証・表示の仕組み(オープンバッジ)を推進していきます。

失業保険の見直しはいつから?

これまでは自己都合退職の場合、待機期間の7日経過後、さらに2か月または3か月の給付制限がありました。
一方、会社都合退職の場合は7日間の待期期間終了後すぐに失業保険の給付対象となります。
これについて政府は、2025年4月から、離職日から遡って1年以内に教育訓練を行っている場合は自己都合での離職であっても、会社都合の場合と同じ取扱いとする方針を打ち出しています。
自己都合でも早期に失業給付を受けられることで、離職による経済的不安を解消しつつ、人材の流動性を上げる効果が期待されます。

その他、労働者に影響を与える項目

退職所得の控除額変更

退職金には税金がかかりますが、これまでの制度では勤続年数が長くなるほど控除額が増える設計でした。

退職所得控除の計算
勤続年数退職所得控除額
20年以下40万円 × 勤続年数
20年超800万円 + 70万円(勤続年数 ー 20年)

勤続20年を超えると1年あたりの控除額が40万円から70万円に増えるので、同じ会社で長く働くほど税制面で優遇されていました。
この税制面での優遇が、労働者の転職・人材の流動性を阻害しているのでは?という考えから、今後勤続年数20年超の場合の控除額の見直しがされる予定です。

官民の求人・求職情報の共有化

これまで民間人材会社が保有していた領域を含め、政府の側で直接、民間の求人情報について広範かつ詳細な収集・集計の委託事業を実施する予定です。
さらに、これによって得られた民間の求人情報と、官(ハローワーク等)で保有する求人・求職情報とを集約し、民間のキャリアコンサルタントが労働者に指導・助言を行う際に具体的に参考とできる粒度で広く情報公開を実施する予定です。

まとめ

新しい資本主義実現本部についてはあまり聞いたことがない人が多いかと思います。
少し前に「こどもを3人以上扶養している多子世帯については、所得制限を設けることなく、国が定める一定の額まで大学・高等専門学校・専門学校を無償化する」という話がでましたが、あれもこの「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」の中で触れられている項目の一つです。

本記事では主に雇用関係の項目についてをまとめました。
政府としてこれからジョブ型人事を推進していき、スキルアップ支援、転職を含めた人材流動性アップを進めていく方針です。
従来のような一つの会社にしがみつく生き方はしにくくなることが予想され、まだまだ働き盛りのミドル世代やその下の若年層にとってはうんざりするような未来設計ですね。
これからの時代を生き抜いていくには、自発的なスキル形成が重要になっていきます。
ただ漫然と生きるのではなく、少しでも良いので日々の生活の中で学びを身に着けていきたいですね。

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